マクスウェル応力テンソル完全解剖|電磁場が及ぼす力と運動量保存の本質
電磁気学の学習や電磁気応用工学の実務において、多くの人が最大の難所として直面するのがマクスウェル応力テンソル(Maxwell stress tensor)の理解です。クーロンの法則やローレンツ力では「離れた物体同士が引っ張り合う」という遠隔作用的な直観を持ちがちですが、マクスウェル方程式を突き詰めると、力は空間そのもの(電磁場)を介して局所的に伝達しているという「近接作用」の真髄に到達します。
電磁場そのものがエネルギーだけでなく運動量を宿し、ゴム膜のように張力や圧力を及ぼし合っているという事実は、現代の光学ピンセットやレーザー加速、精密アクチュエータ設計の基盤でもあります。本稿では、難解とされるマクスウェル応力テンソルの導出から物理的描像、単位・次元の整理、そしてつまずきやすい盲点までを論理的かつ明快に徹底解剖します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:マクスウェル応力テンソルは、電磁場が空間内に生み出す「張力・圧力(電磁応力)」および「電磁場運動量の流束密度」を定量化する2階のテンソルである。
- 要点2:ローレンツ力と電磁場運動量の時間変化を合算することで、応力テンソルの空間微分(発散)と結びつく美しい運動量保存則(連続の式)が導かれる。
- 要点3:電気力線・磁力線に沿った方向には「引き合う張力」、垂直な方向には「押し合う圧力」が働き、遠隔力に見える電磁気現象を近接作用として完璧に説明する。
電磁場が及ぼす力の正体とは?ローレンツ力から応力テンソルへの展開
空間に存在する電荷や電流に働く力は、微視的にはローレンツ力として記述されます。電荷密度を $\rho$、電流密度を $\boldsymbol{j}$、電場を $\boldsymbol{E}$、磁束密度を $\boldsymbol{B}$ と置くと、単位体積あたりに働く力(力密度 $\boldsymbol{f}$)は次の基本式で与えられます。
$\boldsymbol{f} = \rho \boldsymbol{E} + \boldsymbol{j} \times \boldsymbol{B}$
一見すると、この力は「荷電粒子が存在するその場所」だけで発生しているように思えます。しかし、真空中を電磁波(光)が伝播して物体に衝突すると圧力を生じる「光圧(放射圧)」の現象が示す通り、物質が存在しない真空の電磁場そのものも力学的な運動量を運んでいます。
ここで、電荷密度 $\rho$ と電流密度 $\boldsymbol{j}$ をマクスウェル方程式を用いて消去してみましょう。真空中(誘電率 $\varepsilon_0$、透磁率 $\mu_0$)の基礎方程式は以下の4式です。
- $\nabla \cdot \boldsymbol{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0} \quad \Longrightarrow \quad \rho = \varepsilon_0 \nabla \cdot \boldsymbol{E}$
- $\nabla \times \boldsymbol{B} - \frac{1}{c^2} \frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t} = \mu_0 \boldsymbol{j} \quad \Longrightarrow \quad \boldsymbol{j} = \frac{1}{\mu_0} \nabla \times \boldsymbol{B} - \varepsilon_0 \frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}$
- $\nabla \times \boldsymbol{E} = -\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}$
- $\nabla \cdot \boldsymbol{B} = 0$
これらを力密度 $\boldsymbol{f}$ の式に代入すると、物質側の変数($\rho, \boldsymbol{j}$)が完全に消え、すべて電場 $\boldsymbol{E}$ と磁場 $\boldsymbol{B}$ だけの空間微分および時間微分で表現できるようになります。この式変形の果てに現れるのが「マクスウェル応力テンソル」です。

【ステップ解説】マクスウェル応力テンソルの厳密な導出プロセス
大学の物理学講義や専門書で多くの学習者が計算の複雑さに圧倒されるのが、この応力テンソル導出のステップです。ここでは成分表示とアインシュタインの縮約記法、およびクローネッカーのデルタ($\delta_{ij}$)を交えてエッセンスを整理します。
1. ローレンツ力密度の代入と時間微分項の分離
力密度 $\boldsymbol{f}$ にマクスウェル方程式を代入すると、次のようになります。
$\boldsymbol{f} = \varepsilon_0 (\nabla \cdot \boldsymbol{E})\boldsymbol{E} + \left( \frac{1}{\mu_0} \nabla \times \boldsymbol{B} - \varepsilon_0 \frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t} \right) \times \boldsymbol{B}$
ここで、積の微分法則とファラデーの電磁誘導の法則 $\nabla \times \boldsymbol{E} = -\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}$ を用いて、電場と磁場の時間微分をポインティングベクトル $\boldsymbol{S} = \frac{1}{\mu_0} (\boldsymbol{E} \times \boldsymbol{B})$ の時間変化へまとめ上げます。 (出典: マクスウェル 応力 テンソル(Yahoo!ニュース))
$\frac{\partial}{\partial t}(\boldsymbol{E} \times \boldsymbol{B}) = \frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t} \times \boldsymbol{B} + \boldsymbol{E} \times \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} = \frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t} \times \boldsymbol{