垂直応力とせん断応力の違いとは?公式やモールの応力円まで徹底解説
材料力学や構造力学、あるいは土木・建築の実務現場において、避けて通れない基本概念が「垂直応力」と「せん断応力」です。物体に外部から荷重が加わった際、部材内部に生じる抵抗力を正しく評価できなければ、構造物の安全性を担保することはできません。
作用する力の向きや記号、計算公式の使い分けに曖昧さを残したまま強度計算を行うと、過剰設計によるコスト増だけでなく、想定外の破壊事故を招くリスクが生じます。この記事では、両者の基礎的な違いから変形メカニズム、モールの応力円を用いた主応力の導出、さらには土質力学における破壊基準まで、実務に役立つエッセンスを体系的に整理して解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:垂直応力($\sigma$)は断面に対して直交する向きに、せん断応力($\tau$)は断面に対して平行(すべる向き)に作用する。
- 要点2:垂直応力は引張・圧縮や曲げ変形を生じさせ、せん断応力は物体をずらすせん断変形やねじりを引き起こす。
- 要点3:モールの応力円を用いることで任意の傾斜面に作用する主応力を視覚化でき、安全率や破壊基準と併せて部材の安全性を高精度に評価できる。
【決定的な違い】垂直応力($\sigma$)とせん断応力($\tau$)の作用方向と基本定義
垂直応力とせん断応力の決定的な違いは、「仮想断面に対して力が作用する角度」にあります。部材を任意の面で切断したと仮定したとき、その断面に対して垂直(90度)に押し引きする力が垂直応力であり、断面に沿って平行(0度)にすべらせようとする力がせん断応力です。
垂直応力はギリシャ文字の「$\sigma$(シグマ)」で表記され、断面を外側に引っ張る「引張応力(正の値)」と、内側に押し縮める「圧縮応力(負の値)」の2種類に分類されます。棒を両手で引っ張ったり、柱が建物の自重を支えたりする際に支配的となる応力です。
一方、せん断応力はギリシャ文字の「$\tau$(タウ)」で表されます。ボルトの接合部を断ち切ろうとする力や、ハサミで紙を切断する瞬間に作用しているのがこのせん断応力です。作用面を境にして材料を互い違いにスライドさせる挙動を示します。
【基本計算式】材料力学における応力算出の公式と単位
材料力学における応力の基本計算式は、部材に作用する内力を断面積で割ることで求められます。国際単位系(SI)では、応力の単位として$\text{Pa}$(パスカル、$\text{N/m}^2$)や$\text{MPa}$(メガパスカル、$\text{N/mm}^2$)が用いられます。
軸力を受ける棒部材の垂直応力公式は次式で表されます。
$$\sigma = \frac{P}{A}$$
ここで、$P$は軸方向荷重($\text{N}$)、$A$は部材の断面積($\text{mm}^2$)です。引張荷重であれば引張応力となり、圧縮荷重であれば圧縮応力となります。
続いて、直接せん断を受ける接合部などのせん断応力公式(平均せん断応力)は以下の通りです。
$$\tau = \frac{V}{A}$$
$V$は断面に平行なせん断力($\text{N}$)、$A$はせん断を受ける断面積($\text{mm}^2$)です。ただし、梁部材の曲げに伴うせん断応力は断面内で均一には分布せず、断面形状に応じた内部分布を持つため、より高度なせん断応力公式を用いた評価が必要になります。
【変形挙動と物性値】フックの法則・ヤング率と横弾性係数の関係
材料が外力を受けて生じる変形の割合を「ひずみ」と呼びます。垂直応力によって生じる伸びや縮みの割合が「縦ひずみ($\varepsilon$)」であり、せん断応力によって部材の直角が歪む角度変化が「せん断ひずみ($\gamma$)」です。
材料の弾性変形領域においては、応力とひずみが比例関係にあるという「フックの法則」が成り立ちます。
$$\sigma = E \varepsilon$$
$$\tau = G \gamma$$
ここで登場する定数$E$は「ヤング率(縦弾性係数)」、$G$は「横弾性係数(せん断弾性係数)」と呼ばれ、材料固有の剛性を示す指標です。金属材料の応力ひずみ線図を描くと、弾性限度を超えた後に降伏点に達し、塑性変形へと移行していくプロセスが明確に確認できます。
ヤング率$E$と横弾性係数$G$は独立ではなく、ポアソン比($\nu$)を介して次の関係式で結ばれています。
$$G = \frac{E}{2(1 + \nu)}$$
一般的な鋼材ではポアソン比が約0.3であるため、横弾性係数$G$はヤング率$E$のおよそ4割程度の値となります。つまり、金属材料は垂直方向の引張・圧縮よりも、せん断変形に対して剛性が低い傾向にあります。
【曲げ応力とせん断変形】梁の断面二次モーメントと応力集中の実務的影響
構造物に荷重が作用するとき、単純な引張や圧縮だけでなく「曲げ」が発生するケースが多々あります。梁が曲げを受けると、断面の上側と下側で引張と圧縮の垂直応力が発生し、内部にはせん断応力が同時に生じます。
梁の曲げ応力(垂直応力)を求める公式は次の通りです。
$$\sigma = \frac{M \cdot y}{I}$$
ここで、$M$は曲げモーメント、$y$は中立軸からの距離、そして$I$は「断面二次モーメント」です。断面二次モーメントは部材の曲がりにくさを表す幾何学的数値であり、H形鋼のように中立軸から遠い位置に断面積を多く配置する形状ほど、$I$が大きくなり曲げ応力を効果的に低減できます。
一方、梁内部のせん断応力は中立軸付近で最大となり、表面付近でゼロに近づく放物線状の分布を示します。さらに、部材の断面が急激に変化する段付き部や円孔、キー溝といった形状不連続部では、局所的に応力が跳ね上がる「応力集中」が発生します。疲労破壊や脆性破壊は応力集中部を起点に発生しやすいため、角部に適切な丸み(フィレット)を設けるなどの設計配慮が不可欠です。
【主応力とモールの応力円】多軸応力状態を視覚的に解き明かす
実際の機械部品や構造物では、部材の微小要素に対して垂直応力とせん断応力が複合して作用する「二軸応力状態」や「三軸応力状態」が一般的です。このとき、要素を任意の角度に傾けた仮想断面を考えると、垂直応力とせん断応力の値は角度に応じて連続的に変化します。
その傾斜角のなかで、「せん断応力がゼロになり、垂直応力が最大または最小となる特定の面」が存在します。このときの垂直応力を「主応力($\sigma_1, \sigma_2$)」と呼びます。
この複雑な多軸応力状態をグラフ上で視覚的に分析するツールが「モールの応力円(Mohr's circle)」です。横軸に垂直応力$\sigma$、縦軸にせん断応力$\tau$を取り、各面の応力状態を円上の点としてプロットします。
二軸応力状態($\sigma_x, \sigma_y, \tau_{xy}$)における主応力および最大せん断応力($\tau_{\max}$)は、モールの応力円の中心座標と半径から次式で導かれます。
$$\sigma_{1, 2} = \frac{\sigma_x + \sigma_y}{2} \pm \sqrt{\left(\frac{\sigma_x - \sigma_y}{2}\right)^2 + \tau_{xy}^2}$$
$$\tau_{\max} = \sqrt{\left(\frac{\sigma_x - \sigma_y}{2}\right)^2 + \tau_{xy}^2} = \frac{\sigma_1 - \sigma_2}{2}$$
モールの応力円を描くことで、部材内部のどの角度に最も過酷な引張応力やせん断応力が生じているのかを一目で把握することが可能になります。
【破壊基準と安全率】許容応力の設計から土質力学クーロンの破壊基準まで
設計実務では、算出した応力が材料の限界を超えないよう、「許容応力」と「安全率」を設定します。材料の降伏応力や引張強さを安全率(通常1.5〜3.0程度、環境や荷重条件による)で割った値が許容垂直応力や許容せん断応力となり、この制限値以下で部材寸法を決定します。
金属材料が塑性変形を開始する限界を評価する破壊基準としては、最大せん断応力説(トレスカの説)やせん断ひずみエネルギー説(フォン・ミーゼスの説)が代表的です。これらはいずれも、延性材料の降伏がせん断応力成分によって引き起こされるという力学特性に基づいています。
一方、地盤や土を扱う土質力学では、「クーロンの破壊基準」が用いられます。土は引張力には極めて弱く、粒子同士の噛み合わせと摩擦によって強度を保つため、せん断破壊に対する強度は次式で評価されます。
$$\tau_f = c + \sigma \tan \phi$$
ここで、$\tau_f$はせん断強度、$c$は土の粘着力、$\sigma$はすべり面に作用する垂直応力(有効垂直応力)、$\phi$は内部摩擦角です。この式が示す通り、土質力学においては「垂直応力(土の締め付け力)が増加するほど、材料のせん断強度が高まる」という密接な連動関係が存在します。基礎構造の支持力計算や斜面安定解析では、垂直応力とせん断応力の相互作用を正確に把握することが極めて重要です。
【垂直応力・せん断応力】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:垂直応力とせん断応力は同じ部材の同一断面に同時に発生しますか?
A1:はい、同時に発生します。代表的な例が「梁の曲げ」です。梁に荷重がかかると、同一断面内において曲げモーメントによる垂直応力と、せん断力によるせん断応力が複合して生じます。傾斜断面をとることで、純粋な引張力を受ける棒の内部にもせん断応力成分が現れます。
Q2:応力集中を防ぐために設計現場で取られる具体的な対策は何ですか?
A2:段付きシャフトの隅肉部に適切なR(アール・丸み)をつける、切欠きの深さを抑える、穴の周囲を補強する、急激な板厚変化を避けてテーパー(緩やかな傾斜)をつけるといった形状設計が基本です。これにより局所的な応力のピークを緩和し、疲労強度の低下を防止します。
Q3:金属材料の引張試験で、試験片が45度方向に破断することがあるのはなぜですか?
A3:一軸引張荷重を加えた場合でも、軸に対して45度傾いた断面において最大せん断応力が生じるためです。延性材料(軟鋼やアルミニウムなど)はせん断応力によって結晶面がすべり破壊する性質があるため、最大せん断応力が作用する45度方向にすべり線(リューダース線)や破断面が形成されます。
まとめ:応力の本質を掴み安全な構造設計を実現する
垂直応力($\sigma$)とせん断応力($\tau$)は、荷重の作用方向だけでなく、材料の変形モードや破壊メカニズムに直結する力学の根幹概念です。断面に対して直角に引っ張り・押し込む垂直応力と、面に沿ってすべらせるせん断応力を明確に区別し、それぞれの公式を正しく運用することが強度評価の第一歩となります。
さらに、実務における多軸応力状態では、モールの応力円を活用した主応力や最大せん断応力の把握が欠かせません。材料特性(ヤング率や横弾性係数)と各種破壊基準を理解し、適切な安全率を見込むことで、信頼性の高い設計と安全な構造物の構築が可能になります。 (出典: 垂直 応力 せん断 応力(Yahoo!ニュース))