大災害で命を繋ぐスタート 式 トリアージの判断基準と現場最前線
スタート 式 トリアージは、大規模災害の惨禍において、極限状態に陥った医療資源を最適化し、1人でも多くの命を繋ぎ止めるために生み出された災害救急医療プロトコルである。地震や大規模な交通事故など、無数の傷病者が一瞬にして発生する最前線では、誰を優先して治療すべきかという過酷な決断を、わずか数十秒で下さなければならない。
現場のパニックを冷静に抑え込み、客観的な基準で傷病者の状態を見極める。このスタート 式 トリアージの徹底によって、かつては「防ぎ得た死」として失われていた多くの命が、救急医学の発展とともに救い出されるようになった。
黒・赤・黄・緑の4色分類:スタート式トリアージ(START法)の判定アルゴリズム
現場に到着した救急隊や医療従事者が最初に行う判定は、極めてシンプルかつ厳密に標準化されている。スタート式トリアージ(START法)と呼ばれるこの手法は、歩行可能性、呼吸、血流循環、意識状態の4つのステップを辿るだけで傷病者を瞬時に振るい分ける。
最初の振り分けは「自力で歩けるか」だ。歩行可能な者は全員「緑(軽症群)」と判定され、ひとまず安全な待避所へと誘導される。残された歩行不能者に対しては、まず「呼吸」の確認が行われる。気道確保をしても無呼吸であれば「黒(死亡・救命困難群)」、気道確保で自発呼吸が再開した場合や、呼吸数が毎分30回以上または10回未満という異常値を示す場合は、最優先で搬送・治療すべき「赤(重症・緊急治療群)」へ分類される。
呼吸が安定している場合は「循環」のチェックに移る。手首の橈骨動脈で脈拍が触れない、あるいは爪を押した後の赤みが戻るまでに2秒以上かかる場合は、循環ショックとみなされ「赤」判定だ。最後の「意識状態」の確認では、簡単な指示に応じられるかを見極める。指示に従えない場合は「赤」、従える場合は治療に多少の猶予がある「黄(中等症・延期治療群)」となる。この機械的とも言えるアルゴリズムこそが、極限状態で医療者の迷いを断ち切る防波堤なのだ。
ナポレオン軍の軍医から生まれた思想:歴史的背景と開発の真実
傷病者を選別するという思考の根底には、19世紀初頭のナポレオン戦争がある。戦術的な混乱の中でフランス軍の軍医長ジャン・ドミニク・ラレーは、身分や階級を問わず、傷病の深刻さだけを基準に手当を行う組織的革新を成し遂げた。これが近代におけるトリアージ思想の歴史的な原点とされる。
時代が下り、現代の合理的なアルゴリズムとして具現化したのは1980年代の米国カリフォルニア州だった。ニューポートビーチ消防局とホーグ記念病院の緊急医療チームが共同開発に乗り出し、複雑な診断機器がない野外現場でも数分以内に正確な優先順位を算出できるシステムを構築。この画期的な手法はまたたく間に世界の災害医療の標準規格となった。
トリアージタッグの現場運用:色と情報が交錯する最前線
判定結果は、傷病者の右手首に装着される「トリアージタッグ」によって直感的に可視化される。黒・赤・黄・緑の4色が帯状に刷られた専用の識別票で、判定者は最も重症度の高い色の部分を残し、下部の不要な色をちぎり取って表示する。騒乱と悲鳴が渦巻く現場であっても、一目で患者の緊急度がわかるデザインだ。
しかし、生命のバイタルサインは刻一刻と変動する。事故直後は「黄」と判定された傷病者が、数分後の腹部内出血によって急速にショック状態へ陥り「赤」に移行することも珍しくない。そのため、一度装着したタッグに過信は禁物だ。搬送拠点や救急外来での再トリアージ(リ・トリアージ)を繰り返す運用ルールが、現場の命を繋ぐ二重の安全網となっている。
2026年最新ガイド:EMISとDMATが切り拓く次世代の現場革新
2026年現在の災害現場では、アナログな紙の識別票と最先端デジタルインフラの融合が加速している。トリアージタッグに印字された二次元コードやNFCチップをスマートフォンでスキャンすると、現場の被災者数がリアルタイムで広域災害救急医療情報システム(EMIS)へと直接送信される。
このデータ連携により、現地へ派遣された災害派遣医療チーム(DMAT)プロジェクトの指揮本部は、どこに何人の「赤」患者が集中しているかを即座に視覚化。ドローンや電動救急車、ドクターヘリの配分を瞬時に最適化できるようになった。スタート法が持つ現場でのアナログな速さと、デジタルネットワークによる広域統制が組み合わさることで、搬送遅延による予防可能な死亡は着実に減少しつつある。
厚生労働省と日本災害医学会が目指す標準化と市民への普及
日本の厚生労働省や日本災害医学会は、プロの医療従事者や消防隊員だけでなく、自治体の防災担当者や一般市民に対するトリアージ概念の周知活動を強化している。首都直下地震や南海トラフ巨大地震といった巨大災害が発生した際、公的救急体制が一時的に飽和・機能不全へ陥ることは避けられないからだ。
災害時に命の選択を迫る決断は、現場の人間にとって過酷な心理的負担を伴う。だからこそ、主観を排除した明確な手順とプロトコルの存在を社会全体が正しく理解しておく必要がある。一人ひとりが判定アルゴリズムの仕組みを知り、緊急手順を頭に入れておくことこそが、予期せぬ惨禍の中で1人でも多くの命を次代へ繋ぐ力となるはずだ。 (出典: スタート 式 トリアージ(Yahoo!ニュース))